「すごいですね。私の彼は“ロープ”だから、きちんと仕事してるだけでもすごいと思いますよ」
「ハハ…、それはハードルが低過ぎるなァ。でも、ヒモって男としてどうなんだろ。楽しいのかな?」
「何もせずに家で携帯ばっかりいじってるんですよ。働けって言うと、さめざめと泣くんです」
「うーん…、オレの小さな世界とはキャパが違い過ぎてよく分からんよ」
真紀さんは服部さんと意気投合。ベッドを共にする関係になり、久野が出て行ったら正式に付き合おうと約束した。そうなると、久野の存在はもう邪魔なだけだった。
「もうアンタと一緒にいるのもイヤ。さっさと出て行ってよ!」
「そんなこと急に言われても…。こっちに来てから親とも連絡取ってないし…」
「じゃあ、2カ月だけ待ってあげるわ。お金をためて出て行ってちょうだい!」
真紀さんは新しい彼氏である服部さんの存在を公言し、夜な夜なデートに出掛けるようになった。
真紀さんは服部さんに勤務のシフト表を渡し、「会える日ならいつでもOK」「夜遅くても全然OK」と言って逢瀬を重ねていた。
二人は会うなりホテルに直行し、お互いの体が溶け合うほどの情感を交わし、快美感を共有していた。
事件前日も真紀さんは服部さんの父親が救急車で病院に運ばれたというのに、「会いたくてたまらない」とおねだりし、病院の近くまで行って服部さんを呼び出し、近くに止めた車の中でカーセックスをした。
〈今日は押し掛けちゃってごめんね。私、わがままだけど懲りずに遊んでね。家に帰るととっても寂しくなる…。実家に帰った方があなたに会いやすいかな?〉
これが生前最後のメールになるとは、真紀さんも、服部さんも夢にも思わなかったに違いない。
事件当日、久野はアパートの解約日時を説明され、それを受け入れる姿勢を見せていたが、内心では未練タラタラだった。